ゲームとマンガを消費し続けた存在が、人間関係もねらっていくにあたっての備忘録です

雨は止まないという話

豪雨だ。

バシャバシャと降る雨が水面に何十、何百もの波紋を浮かべ、穏やかだった世界は荒々しい混乱に包まれている。あまりに激しく降るから、ほかの音などもう聞こえやしない。はじめからそうであったかのように、轟々と雨は鳴り響いている。

ほんのときたま、雨が止む時がある。そのとき、落ちた小石が浮かび上がってくるように、奥底から浮かんでくるものがある。それを俺は、言葉と呼んでいる。

 

 文章を書くタイミングというのは言葉が見つかるかどうかに左右される。石が投げ込まれた、その瞬間さざ波は立ったとしても、それが浮かんでくるまでにはタイムラグがある。静かな日々が続けば底にあったものも浮かんできやすくなるような気もするし、かといって嵐のような毎日がなければ、そういったものが揺り動かされることもないような気もする。思いつく、浮かぶ、ひらめく、どれも自分でタイミングを決められるものではない。ただそれは、なにもなしに突然やってくるわけでもない。どこかでずっと、考え続けていたから得られるものなのだろう。言葉にできず忘れようとした思いや、彼方に置き去りにした記憶を言葉にできる日がやってきたとしたら、それは忘れられなかったからで、置き去りにできなかったからなんだろう。

 雨は降り続いているのだ。

雨音だけ聞いていたら、世界はそれだけになってしまう。雨に混じって落ちていったものを、忘れずにいられるだろうか。驟雨のさきにふと見えた自分の水面に、浮かんだものを掬えるだろうか、救えるだろうか。またすぐに雨足は強くなった。静かな轟音が響き続ける。雨ばっかりだ。雨ばっかりだけど。豪雨は世界そのものなんかじゃないんだと、叫ぶ。その声は誰にも届かないほどの雨だと知っても、自分のためだけだとしても。こんなにも水面は自由なのだと。世界に叩きつけなければいけない。

 ときに誰かの声が、沈んでいた欠片を見つけてくれることがある。自分では見つけられない大切な、でも自分の中にあったものを見せてくれるのは、他人だったりする。叫び続けたかすかな声が、本当に誰かの心を動かしていたりする。

 雨は降り続く。降り続くんだよ。

降り続く雨の中で、浮かんだものをとっておくんだ。とっておきの、自分だけのとっておきを。見つけられるように丁寧に日々を過ごすんだ。それは自分だけの海で、だけど海はどこかで、誰かと繋がっているのだ。